作物生産の原理原則について


①チッソは葉肥、リン酸は花肥実肥、カリは根肥、つまりは肥料は作物のゴハン。

 

➁農業の基本は「土づくり」。

 

 ①➁の文言は半ば相反しますが、多くの生産者さんはどちらも何となく「そうだナア」

と感じながらも、

 

「山に肥料を入れるのは見たこと無いな」とは、殆どの方が言われます。

 

 田畑と比べて圧倒的な植生が繁茂している山には、肥料ではない自然界の栄養が供給さ

れているからに他なりません。その自然の仕組みはこうです。

 

  1. 命を失った有機物(枯れた植物、落ち葉、死んだ動物、小動物、微生物などとその排泄物)はどこの土、水にでもいる微生物(アンモニア化成菌と呼ばれるバチルス菌、枯草菌、プシュウドモナス菌など)の働きでアンモニア(NH3)に変わります。
  2. アンモニアは双子葉植物の根には好ましくありませんが、硝酸化成菌(ニトロコッカス、ニトロソモナス菌やニトロバクター菌等)がいる土壌では亜硝酸を経て硝酸(NO2)に変わり化成チッソ肥料として植物に吸収されます。
  3. 硝酸は水に溶けやすいので、植物に吸われ易いと同時に強い雨や長雨が降ると流れ出て、川や海の富栄養化を引き起こします。通常投与される化成肥料も30%~70%が流亡していると判定されています。
  4. 一番問題なのは化成肥料が多いと硝酸化成菌は働かなくなるばかりか、ミミズとともに逃げ出てしまい、土壌はアンモニアが過剰気味になります。イネ科を除いた作物はチッソ不足となり、化成肥料の投与に頼らなければ生育不良になることは避けられません。
  5. 硝酸化成菌の培養は有機培地では長いこと不可能でしたが、ケイ酸培地では増殖が促進されることが明らかになりました。
  6. 自然の循環の中では異常気象を除き栄養不足となるような状況はめったにありませんが、植物は水と栄養の吸収装置たる根を縦横無尽に張り、土着菌と共生しながら生き抜いて子孫を繋いでいきます。

 ①の文言は生産者さんに納得されやすいように作られた感がありますが、チッソ、リン酸、カリの三要素の必須性は不変です。生命の三原則は水・タンパク質・DNAとされますが、炭酸ガスから得られる炭素、水から得られる水素と酸素をベースに、チッソはタンパク質の素になるアミノ酸とDNAの核酸の主要素として働き、リン酸は細胞膜とDNAの構造に不可欠となります。カリは細胞内の水分(細胞質)の主成分としてシステム維持の働きをします。

 

 「チッソ循環」という言葉もよく聞かれます。生命維持はチッソの奪い合いとも言われ、草を草食動物が食み、草食動物を肉食動物が餌食とするのはチッソの循環に他なりませんし、1~6の流れもチッソ循環の仕組みとなります。1950年に25億だった世界の人口が現在80億人と3倍以上に増えたことは他の生物が必要としたチッソの多くを人類が奪ったことになり、事実人類の繁栄とは逆に多くの生物種が姿を消してチッソ循環のひずみが生じています。

 

 地球上にあるチッソは大気の78%を占め、面積1平方メートル当たりに約7トンがあると言われますが、その99%はN2ガスで残りの1%が土中、水中、生物体に存在し循環を繰り返しています。現在の農業のあり方は硝酸化成菌が働いたチッソ循環だけでは足りないとして、ハーバー・ボッシュ法という膨大なエネルギーを用いて空気から取り出したチッソを利用して人類の食料を支えています。一世紀を超えて空気中からチッソを取り出し、海へ放出し続けることが将来の地球環境に与える影響を研究者たちは心配しています。

 

 農業は実りを得て収益として生業を継続すべきものです。生活費と次作のための経費を賄えないと継続は難しくなりますが、山の自然の営みに習えば、つまり命を亡くした有機物を土壌微生物の働きでNPKをはじめとする必要な栄養素に変えれば、作物は根の生育をもって適切な栄養を吸収し恒常性を高めるので、生産者さんは肥料や農薬などの消耗品コストを削減できます。肥料を始め資材が高騰するなかで、土中の微生物の働きを高めて土づくりによる農業にシフトするほうが病害虫が減り秀品率は高まるので、収量は減ったとしても収益は増えることが期待できます。

 

 そんな農業は堆厩肥や緑肥やボカシなどを利用していた1950年代までの農業に近いものがありますが、今は化成肥料の即効性や軽便さや価格などに慣らされて、一部の篤農家を除いて見る影もありません。代わって有機農業や有機肥料を推奨する傾向も見えますが、高コストが作物の価格に反映されるか微妙なところです。化成肥料原料の生産国がナショナリズムの高まりで、値上げ傾向が肥料価格に跳ね返ることは止められないと思われま放出す。

 

 現在廃棄有機物からチッソを作っている大型装置が下水処理場です。屎尿を出来るだけ無害な形にして環境に放出する役目ですが、チッソ豊富な排水を河川や海に流すと富栄養化となり環境に異変を起こしかねないので、脱窒菌を活用してチッソを空気中に戻しています。一部肥料化を行っている施設もありますが、技術的な問題や法制上のくくりや暗黙のつながりのようなものがあり、大きな流れにはなっていません。

 

 ここで注目なのがケイ酸培地(ケイ酸豊富な土壌)では硝酸化成菌が増え、菌叢が整う(有用菌が増え、有害菌は減る)ということです。裏付けるように1960年代からダム、堰の設置が増えるのに伴い圃場や河川のケイ酸含量が減少し、化成肥料のNPK投与が増えるにつれ硝酸化成菌の減少が比例しています

 

 「土づくり」を端的に言い表せば硝酸化成菌を主体とした菌叢を整えることに他なりません。そのためにはケイ酸は必須ですが、ケイ酸(ガラスの主成分)は高分子で水に最も溶けにくい物質のため、水溶性≒オルトケイ酸率が高い≒植物や微生物に反応性が高いケイ酸が必要になります。菌類は見ることは叶いませんが、ミミズが居り、キノコが涌く作土は良い菌叢と考えて差支えありません。